エホバの証人が世の音楽で歌い踊る理由とは

現代キリスト教から読み解くエホバの証人

エホバの証人が世の音楽で歌い踊る理由とは

歌って踊る、エホバの証人たち

近年、エホバの証人が米国における国際大会やら、
ベテルやらでダンスやら歌やらを盛大に楽しんでいる、
という話は聞いたことがあるのではないだろうか。

しかもその中には、
今まさにこの世で流行っている曲に合わせて踊っている動画なども確認できる。

これまでものみの塔は繰り返し、
「世」の音楽やダンスを避けるように、と記述してきた。

それを受けて特に日本では、流行りの歌に関しては常に厳しい目が向けられ、
またそういう規則を厳格に守ることを良しとする地元長老によって、
たとえばカラオケさえも禁止されるというようなローカルルールが存在する会衆も多い。

そのような日本人にしてみれば、
近年のエホバの証人がデトロイト国際大会やアトランタ国際大会、
またはベテルやらでエレキギターやドラムなどを用いた盛大な演奏やダンスで歓迎をし、
またゲスト側の信者たちも一緒になって踊り狂っているのはかなり奇異に感じられるのではないかと思われる。

では、なぜ最近になってそのような現象が見られるようになってきたのか、
という問いについてだが、

これについて端的に言うならば、
「流行に乗ってみているから」というのがその答えとなる。

ものみの塔の発生・拡大との関連性

詳しくはテーマ「現代キリスト教から読み解くエホバの証人」において
後々書きたいと思っているのだが、

実はエホバの証人という宗教を米国文化の中における一宗教団体と位置づけて観察したとき、
米国内における宗教的なトレンドと密接な関わりがあるということがわかる。

エホバの証人(ものみの塔)という宗教については
「19世紀末に突然神が唯一正しい組織を地上に復活させた」
という物語を信者は信じているわけだが、

歴史を紐解けば当時国内で起きていた宗教的ブームに乗って発生し、
拡大した宗教であることは明白であり、
米国の宗教史では明確にそのような視点で、ものみの塔の発生を捉えている。

発生後のものみの塔は、
その時代の空気や流行に上手く乗ることで勢力を拡大してきた。

つまりものみの塔・エホバの証人にとって、
その時代の流行に乗るということは基本的な勢力拡大戦略なのだ。

よって、日本人から見ると、現在・過去を問わず
「どうしてこの時期にものみの塔はこんなことをし始めたのか」
と疑問に思うようなことも、
米国内で起きていることを知ればすんなりと納得がいくことは数多いのである。

米国における宗教的トレンド

ところで戦後、特にここ10年ほど、
キリスト教を名乗る教団の中でもっとも勢いがあるのは
米国での統計上も、世界的にも「ペンテコステ派」である。

他のキリスト教主流派の多くは信者が増えないことや司祭の不足に悩まされているとされる中、
ペンテコステ派だけは現在エホバの証人に起きている高齢化などの諸問題はほとんど聞かれず、
むしろ子どもたちによる賛美チーム結成、チャーチスクールなど若者に関する課題ばかりであるという。
洗礼数も多い。

日本ではキリスト教徒の絶対数が少なすぎてあまり話題にもならないが、
実は日本でもここ10年ほどの間に急成長している。

ペンテコステ派についての詳細は省くが、
ものみの塔のような中央集権的(カトリック的)な宗教団体ではなく、
どちらかと言えばプロテスタントのスタイルに近い形で運営されており、

同じペンテコステ派の中でも様々な教派から構成され、
教派の名前にも「ペンテコステ」の名がついていないところが多い
(有名どころでは「日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団」、「日本フォースクエア福音教団」など)。

ペンテコステ派はものみの塔よりも20年ほど後に発生し、
その後の発展の歴史も活動の仕方もエホバの証人とよく似ている部分があり、
いわばライバル教団とも言える。

ただし、ペンテコステ派は一部から異端視される向きもあるものの、
概ね主流派にも認められているのに対し、
エホバの証人は明確に異端認定されている点が全く異なる。

さて、このペンテコステ派の大きな特徴のひとつは
「歌って踊ってトランス状態になる」
というもの。

そもそも「ペンテコステ」と聞けば元エホバの証人ならば誰でもわかるとおり、
この教派も「聖霊のバプテスマ」と、
それに伴って「異言を話す」という奇跡を現代において体験することを信仰の柱としている。

これをいわゆる「西暦33年のペンテコステ」と同じものであると主張するところから、
「ペンテコステ派」の名がついた。

ペンテコステ派はその初期には、
米国都市部の移民・移住者・低所得層(要するに黒人)の間に広まった。

それが「奇跡によって聖別される」というお手軽な「特別感」の獲得、
また「情緒表現を抑制せずむしろ鼓舞する」、
つまりハイになってトランス状態になることの楽しさが魅力となって広まったものと考えられる。

ただし現代ではインテリ層も多く流入しており、
その神学的程度は相当に高いものであり、
よく勉強しているといった評価も見られる。

社会的地位の低い者たちにまず広まって、
後に社会的地位の高い者たちにも拡大していった、という流れは、
ものみの塔とは逆と言えるかもしれない。

音楽や踊りは宗教的に非常に強力な影響力があり
(というか本来的に宗教起源とさえ言える)、
手軽に高揚感が味わえて、
それを信仰の高揚と結びつけた形で味わわせるのも非常に容易で効果的だ。

つまり、今の時代にいちばんウケているのが歌と踊りを用いた信仰なのであれば、
エホバの証人でもちょっと取り入れてしまおうか、
と思った結果があの国際大会やベテルで歌い踊る信者の姿なのではなかろうか、
と推察するわけである。

エホバの証人はどこへ向かうのか

では、どうして「ちょっと真似して取り入れてみる」ことにしたのだろうか。

音楽と踊りの良いところは、
本能に訴えかけるために教育の程度が低い信者にも大変効果的であることだ。

現代の米国におけるエホバの証人は高等教育を否定して育てられた3世や4世が多くを占め、
さらに新規獲得する信者は言語的な障壁を持つ移民などが多く、

端的に言えば愚民化が著しい。教育の程度が低い者が多くを占めていたという状況は、
ペンテコステ派の初期と同様だ。

そのような状態で、
理屈ではないレベルで信仰を培うツールとして、
歌と踊りほど有効なものはない

近年の賛美の歌リニューアルも、これと無関係ではないのではないかと思っている。

このように、特別な場所に多くの信者を集め、高揚感で信者の心をつかむ。
エホバの証人のお膝元、米国では今、そのような催眠商法的な手法がとられている。

米国をはじめ、先進国におけるエホバの証人は信者数の伸び悩みが目に見えて久しい。
これを打開するために宗教的トレンドに乗ってみようと思うのは納得できる話だ。

今のところ日本には文化的に馴染まないだろうというのがわかっているせいか、
まだこの手法の輸入はされていないようだが、
なにしろ日本といえば信者が増えない国ランキングで堂々のトップを(実質的に)維持し続ける国である。

そのうちこの手法が輸入されることになるのかどうか、
個人的にはとても注目している。

似た例として日本では過去に「踊り念仏」などというものがあったが、
現代の日本は全体として教育の水準が高く、
おそらくトランス状態で信者を鼓舞するような宗教が急激に拡大するとは考えにくい。

ただし既に信者である者は
、他ならぬ統治体のおすすめとあらば、ということであっさりハマる可能性は大いにある。
インターネットの利用やiPadの活用などと同じように。

ただしこのペンテコステ派は「奇跡体験」を信仰の軸に置くことから、
日本国内においてはここ10年ほどのトレンドで言うと
「スピリチュアル系」が大好きな方々との親和性が非常に高いのではないかと、
個人的には思う。

また、ペンテコステ派が米国やキリスト教国で流行る背景の一つとしては
「格差社会」であることが挙げられる。

この先、日本でも格差社会化が進行していけば下級階層の者はそういう
「楽しい」「手軽に特別感を味わえる」宗教に流れていく傾向が強まるだろう。

つまり、エホバの証人がこの戦略を取ることで新規に獲得できる信者がいるとすれば、
それは概ね教育の程度が低い層か、
スピリチュアルなど超自然的な力に興味がある層などになってくると思われるのだ。

なお、ペンテコステ派について多少知っている人であれば、
エホバの証人が歌い踊る動画を見てすぐに
「ペンテコステ派みたいだ」という感想を抱くはずだ。

実際にそのような意見も複数例見たことがあるので、
最近の米国におけるエホバの証人とペンテコステ派の類似性については
ある程度多くの人が感じていることだろうと思われる。

つまり、日本のエホバの証人関係者が抱く違和感に対する答えの多くは、
ものみの塔の本国である米国を観察することで得られる

この視点を持ってものみの塔を考察すると、面白い。
書きたいネタは沢山あるのだが…。

(※)この記事は、2015年1月26日にTwitterにて連投した内容を元に、大幅に加筆修正したものです。

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