「聖書」考察(2) 注意点と問題点

社会と宗教を考えるコラム

キリスト教の「聖書」考察(2) 注意点と問題点

前回の記事からもう一歩踏み込んで少し詳しく紹介してみたい。

「聖書研究」するなら引照付きを

別の記事で
「エホバの証人は『聖句』は知っていても『聖書』のことはまるで知らない」
と書いたとおり、

聖書は全体の関連を読み解くことが重要であり、
エホバの証人にはものみの塔ばかり読まされているせいでその部分がいちばん欠けていると思われる。

よって、「新共同訳」「新改訳」のどちらを買うにしても、「引照付き」を買うべきだ。

聖書とは引用(引照)のオンパレードであり、
ものみの塔のように引用をしていながら全く別の意味で使われているといったことは基本的にありえない(はず)。

そう考えるとものみの塔も引照付き聖書、
また参照資料付き聖書を発行しているという点ではなかなかのものだと思うのだが、
やはりものみの塔誌が邪魔をして正しい理解をさせないのだろうか。(注)

引照で最も重要なのは、旧約とイエスの言葉の対応だ。

イエスが荒野で40日断食をしたときのサタンとの問答や、
イエスが磔刑に処され死ぬ間際の言葉「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」など、重要な引用がたくさんある。

聖書とは引用の関係を理解することこそが重要であり、それこそが聖書を読むことだと言っても良い。

キリスト教の聖書にも見られる「改ざん」

さて、そうは言っても旧約聖書はもともとユダヤ教の聖典であり、
それをキリスト教徒が受け継いで聖典の前半部分としたものである。

ユダヤ教とキリスト教では教義の根幹部分(つまり「キリストとは何か」など)に違いがあるため、
それに合わせて旧約聖書をいわば「改ざん」した部分が、一般の聖書にも実は存在する。

端的な例は、創世記の冒頭部分である。1章1-2節を各聖書から引用してみたい。

「新共同訳」

初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。

「新改訳」

初めに、神が天と地を創造した。地は茫漠として何もなかった。やみが大水の上にあり、神の霊が水の上を動いていた。

言うまでもなく、太字部分に注目していただきたい。

この部分を、英語訳からも拾ってみたい。
主要な英訳版は歴史が古くほとんど著作権が切れているため、WEB上で多種多様な翻訳が読み放題である。

まずはNew Revised Standard Version (NRSV)より。

In the beginning when God created[a] the heavens and the earth, the earth was a formless void and darkness covered the face of the deep, while a wind from God[b] swept over the face of the waters.

この[a]とか[b]とか書いてあるのが、注釈だ。

そこで太字部分についた[b]の注を読んでみると

“Or while the spirit of God or while a mighty wind”とある。

何が言いたいか分かるだろうか。

問題は「神の霊が水の面を動いていた」に対応する部分だ。

NRSVでは”a wind from God swept over the face of the waters.”
つまり直訳すると「神から吹いた風が水の面を動いていた」となる。

ここで動いていたのは「霊」ではなく、「風」である。

そこで注を見ると、”Or while the spirit of God“とあり、
「霊」という訳もありますよ、

もっと正確に言うなら以前はそう訳していたけれども、今は必ずしもそうではない、
ということが書いてある。

ものみの塔の出版物でもよく出てくる
King James Version (ジェームズ王欽定訳/KJV)によれば以下のとおりとなっている。

In the beginning God created the heaven and the earth. And the earth was without form, and void; and darkness was upon the face of the deep. And the Spirit of God moved upon the face of the waters.

そもそもユダヤ人は霊魂の存在を認めていない。
人は神によって土から創られ、土に還る。

そのユダヤ人が書いたとされる創世記の冒頭に「霊」などという言葉が出てくるはずがないのである。
これは本来「風」であるべきだ。

しかし、キリスト教は父(神)と子(キリスト)と聖霊(霊)の三位一体説をとっているため、
創世記から神の霊(聖霊、JW風に言うと「活動する力」)が存在してほしい、
というのが本音なのだ。

よって多くの翻訳において、ここは霊(Spirit)と訳されてきている。

日本の新共同訳においても、
聖書学的には「風」と訳すべきであることを理解しつつも、
教会での使いやすさを優先して、あえて「霊」と訳している。

聖書にはこのような部分がたくさん存在する。

よって、日本人が真剣に聖書学を学ぼうと思ったら、
原語で読むのはまず無理としても、
最低でもStudy Bibleと呼ばれる聖書学による注釈がついている英語の聖書を持ち、
新共同訳もしくは新改訳と照らし合わせながら読む必要がある。

英語の文脈まで理解するのはかなり骨だが、単語レベルなら容易に調べられる。

一般的なキリスト教の聖書には、そのような性質があることを理解して読んでほしい。

新世界訳は三位一体を否定しているはずだが…

ちなみに新世界訳聖書では創世記の冒頭をどう訳しているか。

初めに神は天と地を創造された。さて,地は形がなく,荒漠としていて,闇が水の深みの表にあった。そして,神の活動する力が水の表を行きめぐっていた。

三位一体説を否定しているのであれば「風」で良さそうなものだが、
どういうわけか一般キリスト教の「聖霊」に該当する「活動する力」と訳出している。

ただし注には
「『そして……活動する力(霊)』。ヘ語,ウェルーアハ。ルーアハは『霊』と訳されるほかに,『風』,その他,目に見えないが活動する力を表わす語にも訳されている。」
と、かなり詳細な情報が載せられている。

その元となっている英語版はどうか。

In the beginning God created the heavens and the earth. Now the earth was formless and desolate, and there was darkness upon the surface of the watery deep, and God’s active force was moving about over the surface of the waters.

しっかり“God’s active force”とあり、注には「Or“God’s spirit.”」と記されている。
なぜかWindには言及がない。

無論、上記の例ひとつ取ってみても、
様々な訳出の仕方があるということや、
元のヘブライ語をどう解釈するかというのは学者でも難しい問題であるということを考えれば、
一面的な見方でしかないとも言えることは付記しておく。

特に聖書を真剣に信仰している人からしてみれば、それはそれなりの解釈があることだろう。

いずれにしても、聖書の一貫性についてエホバの証人は強調するものの、
そもそも一貫性を持つように66巻を選んだのが初代教会であり、

その後キリスト教の立場から翻訳したものにさらに都合よく修正を加えた(改ざんとも言う)英語訳を
日本語に再翻訳したものが、元エホバの証人の読んできた「聖書なるもの」である。

もし聖書を読む気があるのであれば、
どの聖書を読むかというのはやはり重要な問題であり、
エホバの証人が考える以上に新世界訳が普通の聖書とは”変わっている”ことは事実であることは意識しなければならないだろう。

(注) ちなみに私は「他人とページをめくるタイミングが違う(引照のぶんだけ文章量が異なるため)からうっかり聞いていなかったり寝ていたりしてもバレにくい」という絶望的に不届きな理由で、引照のついていない古いバージョンの聖書を長く使い続け、聖書を真面目に研究する気が一切なかったため参照資料付き聖書は所持するどころか、触ったこともなかった。

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