ヨーロッパにおけるキリスト教発展の歴史(2)

ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

ヨーロッパにおけるキリスト教発展の歴史(2)

ローマ・カトリックの日本伝来

さて、ルターによる宗教改革と前後するものの、キリスト教の日本伝来について少し触れておこう。

日本に伝来したキリスト教はカトリック(公教会)であり、
かのフランシスコ・ザビエル(スペイン人)によって伝えられた。

その結果「キリシタン」が増えるも、後に江戸幕府によって禁教とされ、
明治政府によって禁教令が撤廃されるまでは長崎において信仰が続けられた。

現在長崎で世界遺産登録を待つ教会群がその歴史を伝える建造物であり(注1)
「天主堂」の名で知られる。天主とはキリストを意味する。

カトリック教会においてはそれぞれが教皇庁と直結する「司教区」が規模に応じて設置され、
日本国内においては16の司教区がある。

この中には歴史や規模に応じて「大司教区」とされるものがあり、
国内では東京、大阪、そして前述の長崎の3つが「大司教区」となっている。

ものみの塔・エホバの証人は日本国内における宗教法人格をかなりわかりにくい形で運用している。
関係者なら誰もが知るとおり、
「ものみの塔聖書冊子協会」と「エホバの証人の○○会衆」(多くは同じ王国会館を用いる複数の会衆がまとまって1つの宗教法人格を取得する)は実際には厳格な上下関係にあるが、
法的にはそれぞれ別個の単立宗教法人となっている(トカゲの尻尾切りができる構造、という言い方もできる)。

対してカトリックではこの16の司教区がそれぞれ宗教法人格を持ち、
個々の教会は法人格を持たないというわかりやすい仕方で運用されている。

この点だけとってみても、法的にも実務上も組織体が明確である分、
カトリックのほうがものみの塔より遵法精神・規範意識が高いと言えるかもしれない。
いや、至極当たり前のことをしているだけとも言えるが(注2)

正教会の日本伝来

対して正教会(ギリシャ正教)は、一国に一つの教会組織を置くことを基本とする。

ロシア正教会、セルビア正教会、ルーマニア正教会、ブルガリア正教会、グルジア正教会、ギリシャ正教会、日本正教会などと、国名の後ろに正教会とつくが、
これらはカトリックの司教区と同じく、単に組織名であって、
全体として正教会という一つの信仰のもとにある。

ただし「正教会」とついていても、
前記事に書いた非カルケドン派の「東方諸教会」
シリア正教会、コプト正教会、エチオピア正教会などと名乗っていることから、
区別が必要である。

日本へは19世紀後半、明治時代にロシア正教会の司祭ニコライ(ロシア人)によって伝来。
東京・神田駿河台の「ニコライ堂」は彼の名を冠している。

日本正教会は正式には「日本ハリストス正教会」と呼ばれ、
全国に点在する「ハリストス正教会」が正教会の教会施設である。

中でも函館ハリストス正教会(重文)は観光名所としても有名だ。

国内の信者数はカトリック約44万人に対し、正教会は約1万人と、圧倒的な差がある。

日本においてあまり主流ではなく、馴染みも薄く、
本題であるプロテスタントにもつながらない正教会の話はこのへんにしておいて、
カトリックに関する考察を続けたい。

ローマ・カトリックの正統性と教皇権

なぜ、ローマ・カトリックは教会の中の教会と言えるのか。

それは、「使徒ペテロが作ったから」という部分が正統性の根拠となっているからである。

福音書では、「岩の上にわたしの教会を建てる」(マタイ16:18)とあり、
この「岩」を意味するあだ名が「ペテロ」であるのはよく知られている。

バチカンのサン・ピエトロ大聖堂は、ペテロの葬られた岩山の墓の上に建てられたものなので、
キリストの命令を実現した、教会の中の教会だと主張できるわけだ。

故にペテロは初代のローマ教皇である、ということにされた。

もちろんペテロが今の教皇のように仰々しい衣装を着てニコニコしていたわけではなく、
実際には処刑という最期を遂げたとされるわけで、

「ローマ教皇こそが、イエスから使徒ペテロに与えられ代々引き継がれた全教会に及ぶ権威を持っている」
という見解が公式に唱えられるようになったのは5世紀に入ってからの話である。

また、前述の聖句(マタイ16:18-19)をもって、
カトリック教会では伝統的に教皇の地位と権威が聖書に由来するものであるとしている。

これを正教会やプロテスタントでは認めていないが、
少なくともものみの塔の統治体が持つ地位と権威の根拠よりはわかりやすい。

さらに5世紀末になると教皇は、自らを「イエス・キリストの代理者」と自称するようになる。

権力が強まるとさらに自らを高めていこうとする腐敗の表れともとれるし、
キリストに成り代わって人々を従わせる統治体とも非常に似た思いあがりだ。

5世紀の教皇レオ1世が「自分の声はペテロの声である」と述べたのも、
自らの書くことを神の言葉とする統治体と重なって見える

そのようなわけで、教皇というのはとにかく権力が強まっていった。
単に教会のトップであるというだけでなく、
キリストへのとりなしさえもできる権限があるとされるようになったのだ。

つまり、最後の審判のときに、
人々を救われる方へ入れるべきか否かをキリスト相手に口添えできる権限がある
ということなのである。

もしそれが本当であれば、キリストを信じる人々はローマ教皇に従わねばならないだろう。

この構図も今の統治体そのものだ。
自らの発信する言葉を信じて従わなければ滅ぼされる、とより強制力が増しただけで、
基本的にやっていることはローマ教皇と同じである。

で、これはおかしいのではないか、聖書のどこにそんなことが書いているのか
と疑問に思ったところが、
いよいよプロテスタントのスタートとなる。

(注1)2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、国宝・大浦天主堂を含む12件の構成資産がUNESCO世界遺産に登録された。

(注2)宗教法人格に関する部分は2019年8月の記事移設に際し、加筆修正を行った。

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