ユダヤ教の神とキリスト教の神

ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

ユダヤ教の神とキリスト教の神

神は理不尽で、怖い存在

さて、絶対的主権者である神とは人間にとってどのような存在だろうか。

こちらは造られた側であるからして力でかなう見込みは皆無であり、
こちらの意思には関係なく自由に処分されかねないのである。

事実、旧約聖書においてはとにかくとんでもない数の人間が無惨にも神によって殺されている。
ユダヤ教の神は実に怖い神だ

ところがこれがイエス・キリストの登場によって神の姿が大きく変わる。

神は相変わらず人間の主権者ではあるが、
神は人間を大事に思うが故に怖いのだ、と説いた。

人間を助けたい、救いたいという態度を「愛」と呼び、
神の厳しさ=愛、ということにした。

そうするとまず神は怖いという前提があり、
その上で人間は愛されているという図式が成立する。

キリスト教の神は、怖さと愛の二面性がある

人間はもちろん愛してほしい、つまり赦してほしいのだが、神は厳しい。
「最後の審判まではお前が赦されるかどうかはわからない」と言う。

愛していると言いながら、
最後の最後まで本当に愛しているかどうかはわからないと言う。

だから人間は死ぬまで神に赦しを請いながら生き続けるしかない

神のように振る舞うエホバの証人の親

これは2世を育てた親が示す特質と似ていないだろうか。

愛しているとは言っているものの、
それは自分に従うという条件付きであり、道を外れたら愛は与える理由がない。

自分が死ぬまで、自分が望むように子が生きることを期待している。

神と人間の違いをわきまえていないから、
自分が子どもの創造主であるかのような勘違いを起こすのかもしれない。

エホバの証人の統治体もいつの頃からか、自分たちを神と同列に置きだした。

神の言葉は自分たちを通してのみ与えられる、
というロジックをもってして自分たちの発する言葉は神の言葉であると信者に刷り込む。

というわけで信者は全て自分たちの所有物ということになり、

特権を与えて用いるのも(使用)、
寄付をさせたり無償奉仕をさせたり王国会館建設を通して儲けたりするのも(収益)、
都合が悪くなれば特権を剥奪したり排斥措置をしたりして切り捨てるのも(処分)
自由という論理が成り立つ。

もっとも、世のカルト宗教では明確に人間の教祖が存在する場合も多く、
この構造は珍しいことではない。

建前上はうまくごまかしているとしても、
エホバの証人は実質的にカルトの構造を持っていることは明白である。

カルト化した一神教が生み出す、理不尽な二元論

もうひとつ重要なポイントとして、
キリスト教は一神教であるからして、
エホバもしくはヤハウェとして呼ばれる唯一神以外の「神」を拝むことは最大の冒涜であることが挙げられる。

自分が子どもの創造主であるかのような勘違いをしている親にしてみれば、
自分の意向に沿わない方面へ子どもの意識を向けるものは全て「他の神」に見えてくるに違いない。

エホバの証人ではそれを全て「サタン」という便利な言葉で定義付けてしまう。

しかし子どもの側にしてみれば親に逆らっているつもりはあっても、
神に逆らっているつもりまではない

そこを同一視されてしまうことで強烈な違和感を覚えるが、
子どもであるが故に自分の家庭に起きている事態を客観的に見つめることなどできるはずもない。

かくして、親との軋轢がどんどん深刻さを増していく。

いつしか絶対的服従を強いられてそれに耐えられず暴発し、
組織に「処分」されてしまった子どもを、
親としても「処分」しなければならなくなるのだ。

長老たちにも似たような意識がある。

権威ある立場の自分はいわば自分の会衆においては神のような存在だ。

だから自分に逆らう者はサタンに堕ちたのと同じであり、
それだけで組織から排除するに十分な理由となる。

特権剥奪や排斥に関して「冤罪」という言葉がよく使われているが、
その被害者となった者の最大の罪は教義に背いたことではなく、
肩書きのある権力者に逆らったことが実質的な理由である場合が非常に多いと思われる。

これはエホバの証人という宗教組織を見つめなおすうえで非常に大きなポイントである。

原理主義の暴走とでも表現すべきか、
本来は神と人間との関係として理解されていたものが
「社会」の最小単位である家庭のレベルにまで持ち込まれてしまっているのが、現状なのだ。

世界におけるキリスト教というマクロの考察をすることで、
家庭内というミクロの問題の構図が浮かび上がってくる。

これが社会学の果たす役割である。

一神教の権威は預言者にあり

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教は三兄弟宗教であるが、
これらと現代における新興宗教はいずれも「預言者」が重要なポイントになってくる。

預言者つまり神の言葉を聞ける、伝えられる者がそのまま権力を握るパターンが非常に多いからだ。

そこで次回は、旧約聖書における預言者と現代の新宗教について考察してみたい。

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