教皇の権威衰退と宗教改革の始まり

ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

ローマ教皇の権威衰退と宗教改革の始まり

カトリック教会の混乱、失敗した改革

いよいよ、エホバの証人の間では非公式ながら勝手に「エホバの証人」として認定されている
マルティン・ルターが(「ものみの塔」・「目ざめよ!」は、度々ルターを賞賛する内容の記事を載せているため)登場し、

宗教改革からプロテスタントが誕生することとなるが、
これにはまず、極限まで隆盛した教皇権の衰退という伏線があった。

この頃になると西欧諸国が国としてまとまり出し、
互いに国益を優先して争うようになった結果、教皇庁の権威が低下していった。

そしてフランスが教皇庁をコントロールすることに成功し、
フランス出身の教皇を立てることに成功したばかりか、
教皇庁自体をフランスのアヴィニョンに移させた。

これに反発したローマの枢機卿団(教皇の顧問団)は独自に別の教皇を立て、
2人の教皇が並立するという事態となる。

日本の南北朝時代(2人の天皇がいる)のような状態を思い浮かべてほしい。

この事態を収拾すべく、イタリアのピサにて教会会議が開かれ、
この2人の教皇を廃位して新たな教皇を立てたのだが、
なんと2人とも廃位を認めず、新教皇と合わせて同時に3人の教皇が立つという混乱状態に陥った。

こうなれば当然ながら教皇の権威も何もあったものではない。

困り果てた聖職者たちの中に公会議こそが教会の至上決定権を持つべきであるという考え方が強まった。

そして3教皇問題の解決を狙ってコンスタンツ公会議を開催し、ここでついに3人の教皇を退位させることに成功した。

新たな教皇も選出され、教皇問題は収束を見たが、公会議によって教会を改革していくという理想は立ち消えとなってしまった。

こうしてプロテスタント誕生以前からカトリック自身としても改革を行おうという動きはあったのだが、
それが成功しなかったことが結果的に宗教改革へとつながっていった。

贖宥状問題の本質

ルターによる宗教改革の直接のきっかけとしては、贖宥状問題が知られている。

贖宥状はこれを金銭で買うことにより罪の償いを軽減されるというもので、十字軍のころから存在する。

贖宥状はつまり、教皇のとりなしを行う権限(注1)をいわば証券化して売りだしたものだと言える。

人が救われるかどうかの判断は本来キリストのみが担う役割であるはずだが、
これに口添えをする権限を教皇が持っており、
さらに金を出すことでその権限を買うことができる、つまり金次第で救われる。

それはおかしいではないか、というところからプロテスタントは始まっている。

この頃ドイツで、ある大司教の権力欲から
「サン・ピエトロ大聖堂(教皇庁の本拠地)の建設献金のため(注2)」という名目で贖宥状販売の独占権を獲得し、
稼げるだけ稼ぐという行為が行われた。

ルターはこの「堕落した欲望による金稼ぎ」という側面ではなく、
先述のとおり「贖宥状を買うことで、煉獄(注3)の霊魂の罪の償いが行える」という宣伝の考え方に疑問を抱き、
神学者たちに向けていわゆる「95ヶ条の論題」を提示し、意見交換を呼びかけた。

これは「煉獄」などの本来のキリスト教とは無関係なものを取り去り、
本来のあり方に復帰すべきではないかという純粋な神学上の提題(テーゼ)であったわけだが、

これが神聖ローマ帝国(ドイツ)の諸侯たちの思惑によって政治問題にすり替わり、
ヨーロッパ中を巻き込む問題へと発展していったのである。

(注1) 教皇のとりなしの権限については「ヨーロッパにおけるキリスト教発展の歴史(2)」の項を参照のこと。

(注2) 現在のサン・ピエトロ大聖堂は2代目であり、着工は西暦1506年、竣工は西暦1626年である。つまり宗教改革のころにはずっと建設中だった。初代は4世紀から5世紀にかけての建築。

(注3) カトリックのみに存在する煉獄の教義については「キリスト教の引き起こす暗黒時代」の項を参照のこと。

中世におけるローマ・カトリック教会の堕落中世におけるローマ・カトリック教会の堕落前のページ

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