イエス・キリストとはいったい、何者だったのか

ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

イエス・キリストとはいったい、何者だったのか

預言者としての一線を越えたイエス

では、話を聖書時代へと戻そう。

預言者とはあくまでも人間であって、周りに認められるにはそれなりの条件がある
という時代背景のところへ登場したイエスは実際、人々の目にどう映ったのか。

前述のとおり、イエスはバプテストのヨハネによって預言者指名を受けたものの、
普通の預言者として知られていたら今までのユダヤ教がそのまま続行したはずである。

イエスの言動は、明らかに預言者としての一線を越えていた。

例えば、安息日の律法に関して解釈にまで踏み込んで語る(マルコ 2:23-28)というのは、
今までの預言者にはありえないことであり、
モーセの律法を厳格に文字通り守ることを旨としていた当時のパリサイ人にとってはとても許せないことだった。

つまりイエスは預言者として本物どうか、という議論の対象となっただけでなく、
預言者以上の権威をもって語っていたために、ある意味奇異な目で見られていた。

イエスが「神の子」になったのはいつか

イエスとはいったい何なのか。
それは弟子たちでさえよくわかっていなかった。

その証拠に、イエスが磔刑に処されたあと、みんな逃げてしまった。

復活を確信していたのなら、墓の前ででも待っていたに違いない。
弟子たちが誰も復活を信じていなかったことは確実だ。

で、同様に女たちも復活すると思っていないので、
三日目に遺体を清めようと墓へ向かったところ中が空になっており、
その後復活したイエスが目の前に現れる、というくだりになっている。

そこでイエスが復活したのは神の子だからであり、
そう考えると磔刑に処されるまでの奇異な言動の辻褄が全て合う、というふうにみんなが思うようになった。

復活して初めて預言者以上の存在だと思われるようになり、
ただの預言者でなければメシアであり、ついには神の子だということになった。

この三つはそもそも全く違うものなのだが、これをひとまとめにしてイエスに重ねた。
イエスは神の子で、キリストを通して人間が神に従うという仕組みができた。

こうしてキリスト教が誕生した。

ちなみに、ユダヤ教でもイスラム教でもイエスはただの一預言者のままであり、
イエスのあとに預言者は現れなくなったけれど旧約聖書を頼りに信仰を続けるユダヤ教と、
イエスのあとにムハンマドを最後の預言者として位置づけるイスラム教として別の道を行くこととなり、

こうして同じ神を唯一神としてそれぞれ信仰する三兄弟宗教が成立した。

キリスト教において最重要人物であるイエス・キリストというのは、
その存在の解釈という点で、意外にもユダヤ教にとってもキリスト教にとっても厄介な存在なのであった。

キリストを蔑ろにする自称”キリスト教徒”

ところで、エホバの証人は自らを真のクリスチャン(キリスト教徒)と称しているが、
「キリスト教」という名称に代表されるように、それを名乗る宗教はイエス・キリストがいなければ成り立たないはずである。

エホバの証人は名称を「エホバ」にしてしまったせいか、
キリストのことは普段意識せずに生活しているフシが見えるのだが、

それはエホバの証人がキリストを神であるとする三位一体を否定しており、
イエスを神と認めていないところに起因するものだろうと思われる。

ものみの塔の別の声明では「ものみの塔協会はエホバの直接支配の下にあり
キリスト・イエスの直接の指揮下にあります。」と述べている。

これを文字通り解釈するなら、
「人間はキリストを通してのみ神とつながる」というキリスト教の大前提が覆ることになるし、
現在のエホバの証人にとって事実上イエス・キリストというのは大して重要な存在ではないのではなかろうか。

むしろ前記事で述べたとおり、
「神に用いられている唯一の経路(=エホバと人間をつなぐ存在)」としてものみの塔協会(統治体)を位置づけていることから、
自分たちをイエス・キリストの立場に置くために、キリストの存在感を薄めているとも解釈できる。

真のキリスト教を名乗っておきながらその実、統治体にとってイエス・キリストはとても邪魔な存在なのだ。

また、しばしば批判の種になるように、聖書に書かれていることを文字通りに解釈し、
厳格に適用することへパリサイ人並みにこだわる点と考えあわせると、
基本的にキリスト教を名乗りながらユダヤ教的要素も色濃く併せ持っているという、なかなか不思議な宗教なのである。

自らを預言者であるかのように位置付けたり(そして預言によるとされる予言はことごとく外している)、
キリストの立場に成り代わったり、
輸血禁止に代表されるパリサイ的な教条主義的(現実を無視して、特定の原理原則に固執する考え方)教義を強制したり。

統治体の教えは、聖書に沿っているものと言えるだろうか。

統治体は預言者ではありえないことが確実であるばかりか、
神の子イエスが行ったのと同じように、「預言者以上の権威をもって語って」はいないだろうか。

その者はいったい何者なのだろうか。
本物か偽物かを見分けるのは、難しいことだろうか。

そもそもキリスト教とは?宗教とは?

キリスト教的にエホバの証人がどうなのか、という部分はさておき、
根本的な話としてキリスト教とはいったい何なのか?
というところは復習しておくべきだろう。

エホバの証人2世であっても、
なぜキリストが死ぬと人が救われるのかを正確に説明できる人はそう多くないのではなかろうか?

旧約聖書における預言者と、現代の新宗教旧約聖書における預言者と、現代の新宗教前のページ

旧約聖書創世記の神話(3) ノアの箱舟次のページノアの箱舟

関連記事

  1. ヨーロッパにおけるキリスト教発展の歴史(1)

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    ヨーロッパにおけるキリスト教発展の歴史(1)

    ローマ・カトリックとギリシャ正教ものみの塔(エホバの証人)…

  2. 一神教における神と人との関係性

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    一神教における神と人との関係性~西欧的価値観からの考察

    ※このカテゴリーはシリーズ記事になっています。目次をご覧ください。…

  3. キリスト教と政治との関係(1)~教義面から~

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    キリスト教と政治との関係(1)~教義面から~

    当初は弱かったキリスト教の立場4世紀末にローマ帝国の国教と…

  4. 教皇の権威衰退と宗教改革の始まり

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    ローマ教皇の権威衰退と宗教改革の始まり

    カトリック教会の混乱、失敗した改革いよいよ、エホバの証人の…

  5. ハルマゲドンと最後の審判

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    キリスト教におけるハルマゲドンと最後の審判

    エホバの証人が言う「ハルマゲドン」の不思議キリスト教では「…

  6. 使徒たちの死から4世紀末まで

    ヨーロッパ文明から読み解くエホバの証人

    キリストの使徒たちの死から4世紀末まで

    「原始キリスト信仰の復活」という無意味な主張もう一つエホバ…

Recently

  1. カインとアベル
  2. イエス・キリストとはいったい、何者だったのか
  3. 元エホバの証人コミュニティの罠(4) 批判者編
  4. ものみの塔の貸金業法違反疑惑 考察
  5. 一神教における神と人との関係性

Pick Up

  1. エホバの証人元2世vs.元1世 -対立構造の根底-
  2. 日本社会と「エホバの証人」問題
  3. ものみの塔の宗教法人法違反疑惑 考察
  4. エホバの証人2世の作られ方 -哲学的ゾンビ-
  5. 古代イスラエル(3) 北王国のエローヒーム信仰と「エホバ」の…
PAGE TOP