イスラエルの「正統」考察(2)

古代ユダヤから読み解くエホバの証人

古代イスラエル(6) 南北イスラエル王国の「正統」考察(後編)

王朝の継続・変遷の観点から

北イスラエル王国は多数派の部族から成っていたため、
分裂後は人口においても勢力範囲においても経済力においても、南ユダ王国を上回っていた。

しかし、そもそもがユダ族に対する反感でまとまった烏合の衆とも言えたため、
独自の王をたてても王国としてのまとまりには欠けた。

結果的に南ユダ王国では滅亡するまでダビデの王統が続いたのに対し、
北イスラエル王国では何度もクーデターによって王朝が代わった

後にメシアがダビデの子孫から出るという信仰が生まれ、
イエスにつながっていくこともあり、
同じ王統の続いた南ユダ王国が正統とみなされる傾向にある。

またこのような「万世一系の系譜」は、
皇室を擁する日本人の好むところでもあり、
世界的にも認められやすい”価値”であると言える。

しかしこれには聖書自身が反論材料となる。

聖書を信じる立場に立つのならば、
旧約聖書中で良いとされている北イスラエル王国の王朝はまさにエホバによって油注がれた者だと解釈できる。

そうであれば、ダビデの王統との優劣をつける理由にはならない。

そもそも王国分裂のときに12部族がどう分けられたかすらもエホバ(ヤハウェ)によると考えるならば、
北イスラエル王国の部族だけを無条件に切り捨ててしまい、
ダビデの王統が正統であると結論づけるのは暴論と言えるだろう。

また、旧約聖書中では北イスラエル王国の王に関して南ユダ王国の立場から記されているが、
その中でも最悪の王がアハブ(妻はイゼベル)、
唯一の名君がエヒウ(イエフ)とされている。

ところが史実の研究によると、信仰の面ではともかくとして、
事績の面では評価が完全に逆転し、アハブは国力を増大させた有力な王、
エヒウは逆に衰退を招き、北イスラエル王国滅亡のきっかけを作った王として記録されている。

北イスラエル王国が、南ユダ王国から見ればいわば敵国とも言える対象であったと考えると、
単に信仰の面から評価しているというのみならず、
敵国の有力な王を貶め、逆に大したことのない王を持ち上げるというのは非常にわかりやすい構図である。

これだけでなく、他にも聖書中の記述と史実の事績が大きく異なる王が何人もいる。
いかに南ユダ王国が偏った歴史書を作り上げたかを示す、端的な一例だ。

両王国の名称から

「旧約聖書を信じる」という前提ついでにもう一つ挙げるとすれば、両王国の名前が反論材料となる。

サウルからレハベアムまでの統一王国は「イスラエル」と呼ばれ、
分裂後は「ユダ」と「イスラエル」になっている。

名前だけ見れば北イスラエル王国が統一王国のものを受け継いでいる

これには明確な理由がある。

南ユダ王国はその名のとおりダビデを輩出したユダ族が中心となっているためその名がついており、
後のバビロン捕囚時にここから「ユダヤ人」の名で呼ばれるようになる。

「王権はユダを離れず、統治者の杖はその足の間を離れることはない。」
(創世記49:10 新改訳)

とヤコブ(=イスラエル)により祝福されており、
その言葉のとおり滅亡するまで王権がユダ族を離れることはなかった

対して北イスラエル王国はエフライム族を中心としており、
エフライムと言えば、父はヤコブがもっともお気に入りとし、特別に神から祝福されたヨセフであり、

また祖父であり神から祝福されイスラエルの名を与えられたヤコブ本人から、

「…弟は彼よりも大きくなり、その子孫は国々を満たすほど多くなるであろう。」
(創世記48:19 新改訳)

と、次男にも関わらず長子のマナセを差し置いて祝福を受けたことから
「イスラエルの正統」と言われるのである。

その言葉のとおり、子孫が国々を満たすほど多くなったため北イスラエル王国の中心となった。

よって、北イスラエル王国から見れば南ユダ王国こそ反乱勢力であり、
こちらにも正統を主張する理由がある、という論理が成り立つ。

もっとも、モーセ五書の実際の成立時期がバビロン捕囚よりも後である(西暦前400年頃までに?)
とする近年の研究を信じるならば、

創世記を書いた人物は南北両王国がそれぞれユダとエフライムを中心としたものだったことを知っていたことになり、
そこからヤコブによる「預言」というネタにつなげた可能性が高いことになる。

(※)2019年9月の記事移設に際し、改題しました。

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