ものみの塔の刑事責任考察 概論と具体例

社会問題としてのエホバの証人

ものみの塔の刑事責任考察 概論と具体例

宗教団体の刑事責任

ものみの塔・エホバの証人に限らず、
カルトと呼ばれる宗教団体が総じて引き起こす社会的な問題は、
いくつかの類型に収束させて考えることができる。

その1:社会に対する問題・犯罪
その2:家族関係破壊問題
その3:金銭問題
その4:信者搾取問題

数字が増えるにつれて、組織の内部に近い問題となっていくと解釈してほしい。

1(社会に対する問題・犯罪)

戸別訪問や各種勧誘、医療界に対する輸血拒否、
さらには一般社会を対象としたテロ行為までも含む。

2(家族関係破壊問題)

その名のとおり、家族の中に信者と非信者もしくは破門者が存在することにより、
親子・家族間の断絶、また夫婦の離婚を引き起こすという問題である。

3(金銭問題)

寄付やお布施の名目で法外な金銭を巻き上げるというもので、
特に霊感商法などが最たる例として有名である。

4(信者搾取問題)

資金獲得もしくは信者獲得を目的として、
あるいは教団内の様々な仕事を行わせる目的で、
信者を無償かつ保障なしで労働させるというものである。
信者やその子どもに対する性的暴行・虐待もここに含まれる。

このうち宗教団体やその幹部が刑事責任を問われる場合というのは、
過去の例で言えば、

1のように殺人を初めとした犯罪を起こした場合
オウム真理教による弁護士一家殺害事件地下鉄サリン事件など。

1や4に関連して死人が出た場合
…病気治療と称した宗教的行為により人を死なせてしまうパターンなどで、成田ミイラ化遺体事件などが有名。

3に関連して祈祷、除霊、供養などの名目で不当に多額の金銭を詐取または強奪し、詐欺罪や恐喝罪が認定された場合
…数で言えば最も多い。
霊感商法では統一協会(家庭連合)(注1)法の華三法行神世界が被害額トップ3。
このうち法の華三法行は摘発により崩壊、神世界そのものは厳密には会社組織の形態をとっていたが
実態は世界救世教系真光系諸教団と関わりがある霊感商法詐欺会社で、
教祖らが実刑判決を受けて収束。

といった具合になる。

ものみの塔の刑事責任を考える

ものみの塔・エホバの証人も何かと問題視されるものの、
実態としてこれら刑事責任を問われるほどのことをしているか、
と問われると現時点では否と言わざるを得ない。

戸別訪問は確かに迷惑だが教団全体として住居不法侵入を問えるレベルにあるとは言いがたく、
通報されたとしても良くて警官から厳重注意を受ける程度だろう。

野外奉仕に関連して道路交通法違反があるとしても信者が個別にキップを切られて終わり。

エホバの証人が殺人をしようと放火をしようと、
それは宗教的な意味合いを帯びたものではないため個別的案件として処理される。

輸血問題では実際に人が死亡しているが、
信者本人が死ねば自己責任なのは当然だし、

いわゆる「大ちゃん事件」で信者の子どもが死亡した場合でも、
結局両親が保護者遺棄致死などの刑事責任を問われることはなかった(注2)

カルトに付きものなのが金銭収奪の問題だが、
この点でエホバの証人はもっとも緩やかかつ巧妙と言える。

元エホバの証人からは寄付の問題について色々と言われているものの、
ものみの塔は「信者数を増やして広く薄く継続的に収奪し続ける」というのが資金獲得のビジネスモデルであり、

強引な霊感商法で一気に多額を奪い取る手法を用いる某協会(上述したほうの協会であって塔協会ではない)や、
信者数を増やすという点では共通しているもののそのやり方が非常に強引なことで知られる某学会などとは一線を画する。

2010年代に入って、
日本のエホバの証人が寄付について定額要求を課すようになってきたのは、
単純に信者数を増やすというビジネスモデルが成り立たなくなってきている(むしろ減ってきている)
ことの表れだろうと考えられるわけだ。

そのようなわけで、一般的に宗教団体が刑事責任を問われるようなケースに
ものみの塔やエホバの証人が当てはまると考えるのは、無理がある。

信者の中には激しい考え方をする者もいるため、
勧誘が強引に過ぎたり、いわゆる長老や司会者の指導が行き過ぎていたことで
重大な被害を被る例というのは存在するかもしれない。

しかし全体的に見ればそれらは個別に処理する以上のものではなく、
エホバの証人の各会衆やものみの塔の監督責任にまで累が及ぶものではないと考えられる。

次は、ものみの塔が犯していると喧伝されることのある「組織犯罪」について考慮する。

なお先に断っておくが、
しばらくものみの塔の法的責任に関する記事を続けるものの、
とにかくものみの塔を糾弾したい人にとっては、残念ながらご期待には添えない。

あくまで社会の中においてものみの塔がどういう性格を持つかを概観する、
という視点でお付き合いいただきたい。

(注1)正式名称を「世界基督教統一神霊協会」と名乗っていたこの教団は現在でも一般的には「統一協会(教会)」として知られているが、日本では2015年に「世界平和統一家庭連合」と改称し、略称も「家庭連合」を自称している。

(注2)可哀想なのは大ちゃんを撥ねたダンプカーの運転手で、業務上過失致死罪での書類送検となった。業務上過失傷害罪と罰則に変わりはないものの、撥ねた相手が死んでしまったかどうかではだいぶ精神的なダメージが違うはずである。

(※)2019年9月の記事移設に際し、一部修正しました。

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