ものみの塔の民事責任考察 離婚裁判例

社会問題としてのエホバの証人

ものみの塔の民事責任考察 離婚裁判例

宗教団体の民事責任

カルトと呼ばれる宗教団体が総じて引き起こす社会的な問題の類型をおさらいしておこう。

その1:社会に対する問題・犯罪
その2:家族関係破壊問題
その3:金銭問題
その4:信者搾取問題

このうち刑事責任では、主に1と3、また4の一部について考慮したが、
具体的に被害者がいるような案件においては刑事責任とともに民事責任も当然存在すると考えられる。

詐欺や恐喝における損害賠償請求などが実際になされている。

そこで、主に民事責任が問われると見られる事案については、
主に2と4の類型を考えることになる。

まず家族関係破壊問題についてだが、
これは今まで裁判が起こされた事例を見る限り、概ね以下の二つに集約される。

1、信者による多額の献金を家族が阻止しようとする事件
2、離婚および親権に関する事件

もっとも、1は宗教団体自身が関係するものだが、
2については宗教団体そのものは関係せず、
家族内に宗教が入り込むことによって起きるものでしかないことには注意が必要である。

未知の、金銭+家族問題

エホバの証人に関連させて考えると、このうち1については、将来的に問題となる可能性がある。

既に他教団ではいくつもの裁判事例があるが、
それこそ洗脳状態で脅しをかけ、存命中の信者から財産を身ぐるみ剥がそうとする教団に対して、
家族が財産の保全処分を求めるというものが中心で、これはほとんどが認められてきた。

ものみの塔も現在、遺産の寄付を盛んに推奨しているが、
実際に亡くなった信者の多額の遺産がものみの塔に流入して家族が騒ぎ出すとしても、
しばらく後のことと思われるし、

実際問題、信者自身がそれほど”多額”の遺産を残すかどうかについても少し微妙なところではある。

また実際に家族からの申し立てがあった場合、
ものみの塔側がどれだけ強硬な態度に出るかもまだわからない。

いずれにせよ、エホバの証人においてこれがどれほどの問題となるかは未知数であり、
まだ考察できる段階にはないものと考える。

離婚裁判問題

対して2については、既に数十年にわたって多くの判例が存在し、
裁判が起こされても多くの場合においてそう判断は難しくないというところまできていると思われる。

国内のエホバの証人が関係する離婚に関する裁判においては、
信者である妻に対して非信者である夫が離婚を要求するという形で起きるものがほぼ100%を占めていると言われている。

ここで問題になるのは、離婚するに際して単純な夫婦間の問題だけでなく
信仰の問題がどれほど関わっているか、だろう。

それによって、離婚を認める判決、認めない判決どちらも出ている。

離婚が認められた例

夫がエホバの証人を信仰する妻に対して離婚を求めたところ、
妻がエホバの証人の信仰を絶ち難いものであるとしているのに対し、
夫は信仰を変えない妻との間で婚姻生活を継続していくことは到底不可能であると考えており、
そのような対立は既に十数年にわたって継続されてきたものであるなどとされ、
3人の子のうち2人は既に成人し、残る1人も来年成人するというケースで、
夫からの離婚請求が認められた例
(東京地裁平成9年10月23日判決)

離婚が認められなかった例

(上の例と同様に、)エホバの証人を信仰する妻に対し夫から離婚請求したケースで、
夫の離婚意思は固いといえるとしながらも、小学生の子供が2人おり、
夫婦にもやり直しの可能性があるなどとして、離婚を認めなかった例
(東京地裁平成5年9月17日判決)

上記の例からも分かるように、判決に際しては、
子どもの存在や子どもに対する宗教教育も大きな要素として関わってくるのだが、

まず夫婦間の問題に限って考えても、
基本的に信者である妻の主張については退けられることが多い、
つまり裁判になるとエホバの証人側は一般的に不利であるということが言える。

つまり、エホバの証人側としては

ものみの塔の教義のおかげで自分は良い妻となっている(自分に非はない)
しかし夫がそれを認めないため夫婦関係がうまくいかない

というロジックで自らの正当性を主張するものの、裁判所としては逆に

夫がそれを認めるということはものみの塔の極めて偏った教義を認めるということで、普通の人には受け入れがたいものであること
教義を認めるよう要求しているとすれば、妻の側にも大いに夫婦関係破綻の原因がある

という点を認めている。

さらにこれに2世である子どもが絡むと、

子どもに対しエホバの証人の教義を教えこまれることも夫として受け入れがたいものである

という夫の主張が認められる。
これをもって親権も夫にいくことが多いのである。

つまり、エホバの証人信者の側が考える「自分は正しい理論」というのは、
既に明確に裁判所によって否定されている。

信者である妻の側は前述のとおり「教えによって夫に服する良い妻になって」おり、
夫がエホバの証人を受け入れないのは
「理解が足りないから」「勘違いしているから」と決め付ける。

しかし実際には夫に配慮して
エホバの証人としての活動をやめる、控えるつもりは一切ないという強硬さを発揮し、
エホバの証人の教えが一般的に受け入れられるようなものではないから反対されているという事実には
目を向けようとしていない。

それを裁判所ははっきりと指摘しているのである。

妻の側としては「離婚は望まない、夫への愛情はある」として、
離婚の原因があくまでも夫の側にあるかのごとく主張をするわけだが、
実際の判例においてはむしろ、

それが「教義で離婚を禁じられているからしない、夫に従えと言われているからそうする」というのが真実であり、
その教えは実感の伴わない形式的なもので、
夫に対し一方的かつ独善的な要求をするエホバの証人側の態度が夫婦関係破綻の主因である
とさえ指摘しているものすらあるのだ。
(大分地裁昭和62年1月29日判決)

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