自己満足と自己肯定の違い
では現状を正しく認識してみて、
結果として自分の現状としては悪いことだらけだ、となった場合、
それは不幸なことではないのだろうか。
結論から言えば、全く不幸なことではない。
というのは、前回述べたとおり、悪いこと[-]を悪い[-]と認識することは、良いこと[+]だからである。
今の自分が良くない状態だと認識するからこそ、良い方向へ努力することができる。
これが本当は良いのに悪い状態だとか、本当は悪いのに良い状態だとか評価してしまうと、どちらにしても成長の機会が失われる。
正しく評価できて初めて、自己肯定することも可能になる。
元エホバの証人には、生来の性質故に、生い立ち故に、あるいはエホバの証人であったが故に
「自己肯定感」を持ちにくい人も多くいると思われる。
ここでも注意が必要なのは、自己を肯定するということと、
自分に満足するということはこれまた別の話だということだ。
エホバの証人の本質の一つが「自己満足」であるということは以前述べたが、
エホバの証人は「自分は無価値な存在だ(自己否定)が、
神を知り、そのために尽くす生活を送ることで価値ある存在として認められる(自己満足)」
というのが信仰のロジックだった。
今までは自己否定をすることで満足を得ていた(因果関係)のだから、
自己肯定と自己満足というのもやはり別物だということが言える。
自己肯定とは何か
つまり自己肯定とは、現状に満足していて良いのだ、ということではない。
現状に満足しているだけではただ単に成長しない、できない人間だということに過ぎない。
人は欲望によって成長する生き物であり、「なりたい自分になる」ことが即ち、成長だ。
成長するためには自分の過去と現在において良いことも悪いことも全てが糧となる。
だからこそ、良いことも悪いことも含めて今の自分を肯定することが、成長につながる。
宗教が信者にまず自己否定させるのは、なりたい自分にさせず、組織にとって都合の良い人間に仕立てるためだ。
もし、その「組織にとって都合の良い人間」像が自分の「なりたい自分」像と一致していたのだとしたら、
宗教をやめる必要などなく、その人は大変幸せでいられるだろう。
そうではないからこそ宗教を出てきたのだとすれば、
今一度「なりたい自分」への舵を切り直すことはなにより重要なことのはずだ。
2014年に大流行した「ありのまま」という言葉も同じ勘違いを生んでいるように思う。
映画そのものを観ていないのでストーリーを踏まえずに述べることとなるが、
「ありのまま」で良いんだ、というのは決して「今の自分に満足して良いんだ」ということを言っているのではないはずだ。
良くも悪くも自分の性質をそのまま認め、
それを踏まえた上で自分にとって最良の道を選択することを我慢する必要はない、
言い換えると「なりたい自分」像がありのままであれば良いのだ、
というのが本来の趣旨であるはずだ。
なぜなら、「ありのまま」と訳された原文”Let it go”を、できるだけ直訳に近い形で解釈すると「解き放つ」という意味になるからだ。
「現状で満足」と「解き放つ」では、意味が全く合わない。
“Let it go”の後で”Can’t hold it back anymore.”、
つまり「もう我慢はできない」とあることからもそう言える。
これは「(我慢するのをやめて)欲望を解き放つ」、
つまり「なりたい自分になる」という意味に他ならない。
どのような方向性でもかまわないが、自分を今よりも向上させようという気持ちは間違いなく欠かせないものだ。
その「今よりも向上しようと思っている自分」がいるからこそ、自己肯定は意味を持つ。
自己満足して向上心を失った人間が自己肯定しても、それこそ虚しいだけだ。
自己満足して向上心を失った人間とは即ち、エホバの証人の姿そのものだ。
エホバの証人をやめても根拠のない自己満足をしているなら、成長していない。
成長しようとしていない人間は社会的に害悪なのである。
たとえば万引き犯やDV男がなぜか自己満足してしまい「オレはありのままでいいんだ」などと思われても、
周りが困るだけで何も良いことはない。
しかし、自分のダメなところを認識した上で改善する努力をしているなら、
その人間は肯定される価値があると言えるだろう。
私が思うに、自己肯定感の本質とは必ずしも「今の自分」を全面的に認めるというものではなく、少し違うイメージを抱いている。
自己肯定感とは言い換えると「根拠なき自信」であり、
「自信」とはこの先自分がいかようにも進化していけるという自信、
つまり未来の自分に関する自信である。
未来の「なりたい自分」になるためのポテンシャルが今の自分に備わっていると自認すること。
それこそが「自己肯定感」の本質なのではないだろうか。
→まとめ(3)につづく
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