エジプトからカナンへ(2) モーセの実在性

古代ユダヤから読み解くエホバの証人

旧約聖書出エジプト記(3) モーセの実在性と「エホバ」誕生

モーセという人物の果たす役割

以上、ヤコブからモーセヨシュアに至るまでの流れを踏まえて、モーセという人物についての実在性を考えてみたい。

カナンの地へ入るに際してはヨシュアが率いていた、というのは歴史的な事実とされている。

しかしその40年前にイスラエルがエジプトを出るに当たって指揮をとったのがヨシュアではないとすれば、
やはりモーセに当たる人間がいたのは事実だろう。

ただその場合、神がモーセとの約束を果たそうとすれば、
カナンに攻め入るのもモーセであるほうがしっくりくる。

ところがこれは史実に反するため不可能だ。

であれば、
モーセという人物はエジプトから出るにあたって神から約束された預言者として想定された人物かもしれない
という解釈が成り立つ。

考えてみて欲しい。

何度も書いていることだが、先祖であるヤコブの時代に約束の地に飢饉をもたらし、
エジプトでイスラエル人が奴隷として使役されるのを400年以上に渡って見殺しにした神を、
果たして人々はいつまでも信仰し続けるだろうか。

モーセのころになれば、人々は神の存在さえ知っていたかどうかすら疑わしい。

なによりモーセ自身、
ナイル川に捨てられるのを防ぐため籠に入れられていたのを運良くエジプトの王女に引き取られ、
宮廷で育てられたことになっている。

育ちからしてイスラエルの神との接点が一切ない男であることを思い出してほしい。

そうであれば、エジプトを脱する時点で、
やはりこの神は誰にも知られていなかったということが言えるだろう。

エジプトを脱した、もしくは追放された後も、
行くあてなく彷徨っていたと考えるほうが妥当である。

行くべき地があるわけでない、どこにも居を定めない民族であり、
モーセに当たる人物が指導者としてイスラエルを率いていたと考えれば、
人々がモーセに対し預言者失格の烙印を押さなかったことにも納得がいくというものだ。

「神」を作って歪められた歴史

仮にそのように前提を考えなおすと、これまでのお話がだいぶ違って見えてくるはずだ。

そもそもイスラエルには故国などなく、
アブラハム・イサク・ヤコブ・ヨセフと続いた歴史自体の正当性が疑われ、

ヨシュアがカナンの地に自ら統治する国を建国したこのときこそ、
イスラエルのスタートであり、エホバという神の誕生の時ということになる。

併せて、アブラハムという建国の父も創作ということになる。

彼は伝説と史実の間に位置する人物とされてはいるが、
それでも彼が実在した証拠は何もないのもまた事実だ。

過去に不幸な歴史を背負った民族ほど真実を隠し、
子孫のために自らの歴史を捏造したり、美化したりする必要があるわけだ。

それがとある国では、
なんでもかんでも自分の国に起源がある、という荒唐無稽な説として表れ、
イスラエルの場合は選民としての唯一神との関わりを描く旧約聖書という形で表れているわけである。

こうして史実の中に神が介入し、
都合の良いところ、悪いところを全て神の意向として処理する、
歪んだ奇妙な世界が出現することとなった。

まさに現代においてエホバの証人が表している「都合良さ」はこれと共通するものだ。

たとえ今は正しい道が示されていなくても、時がくればエホバが正してくれる、という信仰は、
イスラエル人が400年以上耐え忍び、40年も放浪し続けた姿と重なるものかもしれない。

あるいはものみの塔の統治体を預言者モーセに重ねて見ているのかもしれない。

しかし、現実にイスラエル人は自分たちで道を切り開き、
努力したからこそカナンの地を奪い取るという成果をあげることができたのだ。

この時点で成功者だったからこそ、
自らの歴史に物語を付け加え、神話として語り、
輝かしい歴史として後世へ伝えることができたのである。

エホバの証人はどうだろうか。

全てを「神がなんとかしてくれる」「統治体に従っていれば大丈夫」と人任せにし、
自分で考えて努力することを放棄している(統治体にそうさせられている)人が大半ではないだろうか。

古代イスラエルに倣うのであれば、
少なくとも自分たちで自らの集団を良いものにする努力は絶対に必要であろう。

少なくとも、自らの130年におよぶ偽予言の連続であった歴史を
「神からの光が増し加えられた」として神話化して語る姿は、
だいぶ劣化した旧約聖書のようだと思わざるを得ない。

しかもこれは数千年の昔に起きたとされる出来事などではない。
現代の話であり、わずか130年という、調べれば容易に辿れるほどの期間に起きた出来事だ。

その間に起きたことを振り返り、
各々が自分の頭で統治体の正当性を評価することはそれほど難しいことだろうか。

(※)2019年9月の記事移設に際し、改題しました。

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